子どもたちのための、みみ・はな・のどの病気Q&A
ー耳鼻咽喉科領域疾患の健康管理ハンドブックー
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日本耳鼻咽喉科学会神奈川県地方部会の |
2002年6月3日よりのアクセス数
目次
発刊にあたって
耳ときこえのQ&A
難聴の種類について
耳垢と難聴について
急性中耳炎
滲出性中耳炎
慢性中耳炎
急性音響性難聴
心因性難聴
アレルギー性鼻炎Q&A
アレルギー性鼻炎
声とことばのQ&A
学童嗄声
吃音
構音障害
声変わり(変声期)、声変わり障害
心因性失声症
ダイビングについて(楽しくダイビングをするために)
Copy Right
発刊にあたって
日本耳鼻咽喉科学会神奈川県地方部会会長 太田 正治
この度、県医師会学校医部会より委託を受けて、当地方部会学校保健委員会が、Q&A形式による耳鼻咽喉科に係わる健康管理のハンドブックを作成した。
日ごろの耳鼻咽喉科領域の疾患を理解するうえに真に解かりやすく、学校保健に寄与すること間違いない立派なものである。
最近では小学校の耳鼻科医による健診不要論が云々されているとも聞くが、少なくともこうしたQ&Aを読んでみると、ますます健診の重要性が増大するように思われる。 会員には是非ともお読み頂いて、日常の学校保健活動に生かして欲しいと念ずる次第である。
この紙面を借りて、会委員を代表してこのQ&A発刊にご尽力された地方部会学校保健委員会の皆様に感謝を申し上げる次第である。
日本耳鼻咽喉科学会神奈川県地方部会学校保健委員長 玉虫 昇
このQ&Aは、神奈川県医師会学校医部会委託事業として、日本耳鼻咽喉科学会神奈川県地方部会学校保健委員会が作成したものです。
従来、耳鼻咽喉科学校医活動はどうしても定期健康診断が中心となって、子どもたちの疾病予防や、健康管理のための教育まではなかなか手が回らない状況でした。
一方、子どもたちには、「自らのからだ・健康は自らの手でまもる」ことが求められており、そのための健康教育の重要性が指摘されています。この両者を結びつける目的でこのQ&Aは企画されました。
簡明なハンドブックを通して、子どもたちの健康の自己管理の力を養うとともに、健康教育の資料、養護教諭の手引き、健診のスクリーニングとしてさまざまな利用法が考えられると思います。まだまだ不十分な内容ですが、このQ&Aが学校保健活動の一助となればさいわいです。
また、このQ&Aは、インターネットなどIT教育と組み合わせた利用も可能です。
Web上の公開で多くの方の目に触れると思います。ご意見・ご批判等ありましたらお聞かせください。
<難聴の種類について>
のぼる君のおじいさんは、年とともにきこえが不自由になってきて、大きな声ではっ
きりしゃべってあげないと返事をしてくれません、お医者さんからはこれは内耳の神経
の問題で、治せないからそろそろ補聴器をつかったらと言われているようです。また
小学1年生の弟は、中耳炎で耳鼻科に通っています。いまは少し聞こえにくいようで
すが、ちゃんと通えばもとの聞こえにもどるとのことです。難聴の原因にはいろいろな
ものがあるようです。
Q1)外耳、中耳、内耳ってよく聞きますけど、どう違うのですか。耳のつくりを教えてく
ださい。
A) それぞれのしくみについてはあとでのべますが、耳介(みみたぶ)から外耳道をへ
て鼓膜までが外耳です。鼓膜の内側にある粘膜でおおわれた部屋が中耳で、ここに
は耳小骨や、鼻の奥の方へとつながっている耳管という管があります。内耳は耳の奥
深くの骨の中の、音を感じる蝸牛(かたつむり管)や、平衡機能をつかさどる三半規管
などがある場所です。
Q2)きこえのしくみを教えてください。
A) 外耳は空気の振動として伝わってくる音を効率よく集音し(耳介、外耳道)、この
振動を鼓膜が機械的な振動に変えます。
鼓膜の振動は中耳にある3つの骨(耳小骨)によって、てこの原理でおおきな振動
へと増幅されます。この振動が内耳に伝わり、ここでどんな音が入ったかが感じ取ら
れ、電気的な信号に変えられます。この信号が神経をとおって脳へ伝えられてはじめ
て音や言葉として理解されるのです。
Q3)難聴にもいろいろな種類があるのですか。
A) 大きくわけて2種類の難聴のタイプがあります。
外耳・中耳に障害がある場合の難聴を伝音難聴といいます。代表的なものはなんら
かの原因で、鼓膜に穴があいてる状態や、中耳に液体(滲出液)がたまる滲出性中
耳炎などの場合です。
内耳から脳までの間に障害がある場合の難聴を感音難聴(神経性難聴)といいます。
年齢とともにきこえが不自由になる老人性難聴が代表です。
Q4)なおる難聴となおらない難聴があるのですか。
A) 伝音難聴の大部分は、医学的な治療によってきこえを回復させることができま
す。
感音難聴のうちで急に悪くなったもの(ロックコンサート難聴など)は、なおせるもの
もありますが、徐々に進行するもの(老人性難聴など)や、先天性の神経性の難聴な
どはなおすことは困難です。しかし最近は、いままで手術などの治療法のなかった感
音性難聴の一部で、音を電気的な信号にかえて内耳にうめこんだ電極を介して内耳
の神経を直接刺激して音を感じさせるという人工内耳の手術がおこなわれるようにな
りました。
<耳垢と難聴について>
としゆき君は、小さい頃はおかあさんのひざまくらでの耳掃除が大好きでした、中学
に入ってからは自分で掃除してますが、掃除中に腕に弟がぶつかってきて鼓膜に穴
をあけてしまったことがあります。耳鼻科にかかってさいわいすぐに穴はふさがりまし
たが、先生からは耳の中をあまりいじってはいけないと言われました。前にほかの先
生からはこまめに掃除しなさいと聞いたのですが、どちらが本当なの。
Q1)耳垢のために難聴になることはありますか。
A) 日本人をはじめとする東洋人(黄色人種)は全体の3/4が乾性耳垢(カサカサ耳)
で残りの1/4が湿性耳垢(ネバネバ耳、アメ耳)です。極端なことを言えば、乾いた耳
垢はいくらたまっても難聴にはなりません。ただプールなどで耳に水が入ってしまった
場合、耳垢が水をすってふやけて膨張し、耳の孔を完全にふさいでしまうと難聴をお
こすことがあります。これに対して、湿性耳垢は耳の穴に充満するほどたまってしまう
と難聴をおこします。しかし耳垢と外耳道との間に少しでもすきまがあれば難聴はお
こしません。これはちょうど外耳道と耳栓との関係に似ています。耳栓はしっかりつめ
なければ、周囲の雑音がすきまからもれて耳に入ってきます。
このように難聴をひきおこすまで耳垢を放置すると、個人でとりきることはまず不可
能なので、耳鼻咽喉科でとってもらってください。
Q2)耳掃除のしかたをおしえてください。
A) そもそも耳垢は外耳道の真ん中より外側でできるものです。しかも個人差はあり
ますが、少しずつ外側に移動してきます。耳のなかをあまりいじってはいけないといわ
れたのは、奥の方まで綿棒や耳かきを使って、耳垢を奥に押し込んだり、外耳道を傷
つけてはいけないという意味です。耳掃除は見える範囲のものを無理せずにとるよう
にしてください。人によっては、外耳道の形や大きさのために、耳掃除がしにくいことも
あります、このような場合は耳鼻科でとってもらってください。
耳垢は難聴より外耳炎の原因になることのほうが多いようです。あまり怖がらずに
まめにとってもよいでしょう。ただし耳掃除しているところにだれかがぶつかったり、歩
きながら掃除している時にひじが壁などにあたって、鼓膜を傷つける事故が多いので
注意が必要です。膝枕での耳掃除は、親子の大切なスキンシップのひとつです。
<急性中耳炎>
おさむ君は、カゼがなおりかけたと思っていたら急に耳がつまった感じでずきずきと
痛んできました。耳鼻科でみてもらったら、急性中耳炎と診断されました。痛みがひど
かったので鼓膜を切開してもらったら痛みはうそのようにひきました。一週間くらい細
菌を殺す薬(抗生物質)をもらいました。はじめは耳のきこえがおかしかったのですが、
すぐにもとにもどり、何回か耳鼻科にかよって先生から完治とのおすみつきをもらいま
した。
Q1)急性中耳炎とはどんな病気ですか。
A) 中耳に細菌やウィルスが入り、急性の炎症がおきる病気です。中耳腔には鼻の
奥に通じている耳管が開いています。この部分を中心に炎症がおこり、膿がたまった
りするのです。ほとんどの場合は細菌やウィルスが耳管を通って中耳の粘膜に感染し、
急激に炎症をひきおこします。つまりカゼをひいたときなどに鼻やのどの炎症に引
き続いておこることが多いのです。
Q2)年齢との関係はありますか。
A) 小学校の入学までに、約60〜70%の子どもが一度は急性中耳炎にかかるとい
われています。乳幼児に多いのは、@子どもの耳管は大人にくらべて太く、短くさらに
角度が水平に近いので細菌やウィルスが中耳腔に侵入しやすい A全身的な抵抗
力やのど・耳の粘膜の抵抗力が未発達でカゼをひきやすい、などの理由があげられ
ます。
Q3)どのような症状がでるのですか。
A) ずきずきする耳の痛み、発熱、耳だれ(耳漏)、耳がつまった感じなどがおこりま
す。
乳児などでは痛みを訴えられないかわりに、機嫌が悪くぐずったり、しきりに耳に
手をやったりすることがあります。
Q4)どうやって診断するのですか。
A) 耳鼻咽喉科の専門医が耳を見て、鼓膜が赤かったりはれていることを確認します。
また鼓膜の向こう側(中耳腔)に膿がたまっているのが観察できることもあります。
Q5)どのような治療をするのですか。
A) 軽症の場合は抗生物質や消炎剤(痛み止めなど)を服用したり、耳に炎症をやわ
らげる薬液をたらすことで治ります。膿が多いために鼓膜のはれがひどく痛みが強い
時や、熱が高いときは鼓膜を少しだけ切って、たまっている膿をだすことがあります。
急性中耳炎を何回も繰り返す場合(反復性中耳炎といいます)には、何回も鼓膜切開
が行われることもあります。しかし鼓膜は2〜3日でふさがりますので、心配はありま
せん。最近では、抗生物質に対して抵抗力を持った細菌(薬剤耐性菌)が原因の急性
中耳炎が問題になっており、抗生物質の使い方に注意が払われています。
Q6)ちゃんとなおりますか。
A) きちんと治療をすれば、ほとんどの場合は完全になおります。しかし途中で治療
をやめてしまうと、滲出性中耳炎、反復性中耳炎や慢性中耳炎に移行してしまうこと
があります。いずれにせよ専門である耳鼻咽喉科で完全に治ったといわれるまで、き
ちんとした治療をうけることが重要です。
Q7)中耳炎にならないよう、ふだん気をつけることはありますか。
A) 鼻やのどに炎症がおきて、汚い鼻みずや、咳・たんがでる状態が長引くときは、
専門医で治療をうけるとよいでしょう。また鼻のかみ方が悪いと細菌を耳の中に押し
込んで中耳炎をおこすことがありますので、片方ずつゆっくりとかむようにしてくださ
い。
Q8)スイミングスクールに通っても大丈夫ですか。
A) 中耳炎が完全に治って医師の許可があるまではスイミングはやめましょう。
ふだんでも汚い鼻みずが出ているときやカゼっぽいときにプールに入ると急性中耳炎
をおこしやすいので注意してください。
<滲出性中耳炎>
じゅん君はカゼで内科に通っているとき耳が痛くなったのですが薬をもらっているか
ら大丈夫と耳鼻科にはいきませんでした。そのうちカゼはよくなったのに耳のつまった
感じと、きこえがおかしいのがなおりません。耳鼻科でみてもらったら滲出性中耳炎と
いわれました。カゼにともなった急性中耳炎の治療が十分でなかったからかも,とのこ
とでした。鼻水が多いとのことで鼻の治療と、耳に空気を通す治療を何回かうけて治
りましたが、中には治るまで数ヶ月以上もかかる場合もあるとのことでした。
Q1)滲出性中耳炎とはどんな病気ですか。
A) 鼓膜の内側の中耳腔という空間に液体(滲出液)がたまる病気です。
こどもでは3歳ごろから10歳ごろまでに多くみられます。こどもの難聴の原因で一番
多いものです。
Q2)どうして滲出液がたまるのですか。
A) かぜなどで鼻やのどに炎症があるとそれが中耳の粘膜にまでおよんで、粘膜か
ら液体(滲出液)がにじみ出てくるのです。したがって病気がよくなってくるとその液体
も粘膜から吸収されたり耳管から排出されてなくなります。ちなみに鼓膜が正常であ
れば、水泳やシャンプーで耳(外耳道)にはいった水が中耳まで入ることはありません。
Q3)どんなひとがなりやすいの。
A) 前でものべましたが、鼻やのどに炎症がある場合になりやすいのです。
たとえば慢性副鼻腔炎(蓄膿症)で、きたない鼻がいつも出ている子や、アレルギー
性鼻炎の子、鼻の奥にあるアデノイドというリンパ組織がはれている場合などです。
また急性中耳炎が十分になおりきらないで滲出性中耳炎になることもよくみられま
す。
Q4)どんな症状がでるのですか。
A) 急性中耳炎と違って、痛みや発熱をともなわないのが滲出性中耳炎の特徴で
す。
難聴が唯一の症状であることも多く、難聴の程度も軽い場合が多いので気づくのがお
くれてしまうこともよくあります。テレビのボリュームを上げる、呼んでも返事をしないな
どの症状があります。
Q5)どうやって診断するのですか。
A) 耳鼻咽喉科へゆけば、簡単に診断できます。鼓膜をとおして中耳にたまった液体
を確認できますし、簡単な聴力検査や鼓膜の動きの検査で、病気の程度もすぐわか
ります。
Q6)どのような治療をするのですか。
A) 急性の炎症が伴っている場合は、抗生物質をのんで炎症をおさえます。それでも
滲出液がなくならない場合、耳管通気といって鼻から耳に空気を送り込む処置がおこ
なわれることがあります。このような投薬や処置をおこなってもよくならない場合は、
鼓膜を切って中の液体を抜く鼓膜切開術や、鼓膜にチューブを差し込む手術的な治
療もおこなわれます。
また耳に悪影響をあたえていると思われる鼻やのどの病気(副鼻腔炎、アレルギー
性鼻炎、扁桃炎など)の治療も並行して必要となります。
Q7)ちゃんとなおりますか。
A) きちんとした治療をうければほとんどの場合は完全になおります。ただし、治療に
は時間がかかる場合も多く、根気強い通院が必要なこともあります。耳鼻科の先生の
指示に従って治療をうけてください。 不十分な治療などのために、のちのち大変な
手術が必要になる癒着性中耳炎や、真珠腫性中耳炎になってしまうものも時にはみ
られますので。
Q8)鼓膜切開術はどんなことですか。
A) 鼓膜の内側にたまっている液体(滲出液)を排出することと、中耳の風通しをよく
するための簡単な手術です。中耳の滲出液が耳管からだけでは排出されない場合に
鼓膜に小さな穴をあける手術です。缶ジュースをだすのに穴を一つあけただけでは時
間がかかりますが、もう一つ空気穴をあけると出やすくなるのと同じ原理です。
鼓膜やその周辺を麻酔してからメスで鼓膜の一部を切開するだけなので、ほとんど
痛みを感じることはないため、外来でも4歳ぐらいからできます。鼓膜の穴は3〜4日
で自然に閉じますし、よほどくりかえさないかぎりのちのちへの影響はありません。
Q9)鼓膜にチューブをいれる手術ってなにですか。
A) 鼓膜切開術とおなじ目的で、鼓膜に小さなシリコンやテフロンのチューブをはめ込
む手術です。チューブをはめ込むことで、数日で閉じてしまう鼓膜の穴が数ヶ月から1
年以上にわたりあいたままにできるため、薬や処置でよくならない重症の滲出性中耳
炎でも80%くらいはなおります。ただくりかえしてチューブを入れなければならない場
合もあります。
方法は鼓膜切開術と同じで、切開して貯留液を吸い出してからチューブをはめ込む
だけです。外来でできますが、場合によっては全身麻酔で行うこともあります。多くの
場合チューブは自然にぬけますが、抜けない場合は中耳炎のなおり具合をみはから
って強制的に抜いてしまうこともあります。なおチューブ留置術のために鼓膜に穴が
残ってしまう場合もありますが、これはその後の処置でなおせます。
Q10)スイミングスクールは休まなければなりませんか。
A) 耳や鼻の病気に対してはプールがあまりよくないことはたしかです。以前はなん
でもだめということが多かったのですが、最近はその子の状態によっては滲出性中耳
炎の治療中でもプールにはいることは可能と言われています。かかりつけの耳鼻科
の先生とよく相談してください。当然カゼ気味できたない鼻の多いときや、急性中耳炎
をおこしているときはプールを休んでください。
<慢性中耳炎>
さとし君のおばあちゃんは子どものころに中耳炎の治療が受けられなかったので、
鼓膜に穴があきっぱなしで、かぜをひくとすぐに耳だれがます。そのたびに耳鼻科に
通っています。先生からは手術を勧められているようですが、片方の耳は正常なので
手術はいやのようです。先生からは、ほうっておくと内耳炎や最悪の場合、脳膜炎に
なってしまうタイプの慢性中耳炎とはちがうので、それでもよいと言われているようで
す。
Q1)慢性中耳炎にはどうしてなるのですか。
A) 慢性中耳炎には二つのタイプがあります。
一つは慢性化膿性中耳炎とよばれるもので、急性中耳炎が治癒せずに、鼓膜に穴
があきっぱなしになり、耳だれ(耳漏)をくりかえすものです。
もう一つは真珠腫性中耳炎とよばれるもので、鼓膜の一部が変化してできた真珠腫
が周囲の骨をこわしてゆき、時に顔面神経マヒをおこしたり、三半規管をこわしてめま
いをおこしたりするものです。滲出性中耳炎は大部分のものが10歳位までになおり
ますが、数%のものがこの真珠腫性中耳炎になるといわれています。ですから滲出
性中耳炎の治療はきちんとうけてください。
Q2)慢性中耳炎の治療法は
A) 慢性化膿性中耳炎の治療は、基本的には急性中耳炎と同じです。みみだれが止
まれば、治癒としますが、鼓膜に穴があいているため、耳に水が入ったり、カゼをひい
たりすると、耳だれをくりかえすので、再発を防止するためには、鼓膜のあなをふさぐ
手術が必要になります。
真珠腫性中耳炎の場合は、そのほとんどは、完全になおすためには手術が必要で
す。
<急性音響性難聴>
あきこさんは、昨夜ともだちとロックコンサートに行きました。ステージのすぐそばで
良い席だったのですが右前に大きなスピーカーがあり、かなりのボリュームでした。会
場にいるときは気づかなかったのですが、うちに帰ると右耳のつまった感じがありまし
た。翌日起きると右耳のキーンという耳鳴りがあって、聞こえもやや悪いように思いま
した。
Q1)急性音響性難聴(ロックコンサート難聴あるいはディスコ難聴)とはどんな病気で
すか?
A) 強大な音(例えば強烈な音を出しているスピーカのそば等)に短期間さらされてい
ることによって起こる難聴で、内耳の障害によるものです。一時的な騒音性難聴と考
えてください。ロックコンサートに行った翌朝、耳のふさがったような感じや、難聴、耳
鳴り(キーンあるいはピー)がする等といった症状が出ます。ロックコンサートやディス
コなどで起こることが多いのでこのような名前がついています。通常、痛みやめまいを
伴うことはありません。
Q2)急性音響性難聴は治りますか?
A) 難聴の程度が軽く、早く治療を開始した場合はたいていなおりますが、必ずなお
るとは言えません。難聴を自覚した場合はできるだけ早く専門医(耳鼻咽喉科)を受
診することが必要です。一時的になおっても、同じことを繰り返しているとなおりにくく
なることがあります。
Q3)急性音響性難聴の予防法はありますか?
A) スピーカーからできるだけ離れるようにするなど、強大な音にさらされないよう注
意することです。音に対する感受性は個人差が大きいので同じように強大な音にさら
されても難聴を起こさない人もいますが、少なくとも地下鉄の駅の騒音等、となりの人
との会話ができないレベルの音にさらされ続けるのは危険です。
<心因性難聴>
みのる君は学校の聴力検査で結果が良くなかったとのことで、耳鼻科に行くように
言われました。自分では聞こえがわるいとは思っていませんでしたし、まわりの人も聞
こえにくそうなそぶりに気がつきませんでした。耳鼻科でも何回か検査を受けたところ、
本当の難聴ではなく、こころのトラブルからくる見せかけの難聴である、心因性難聴と
の診断でした。友人とのトラブルで悩んでいたことをカウンセラーの先生にぶちまけた
らすっきりとして、それからは聴力検査も正常になりました。
Q1)子どもの「こころの健康」が、大きな問題となっていますが、耳鼻咽喉科では、「こ
ころ」の問題からどのような症状がでることがあるのでしょうか。
A)「こころ」の問題からおこる病気のことを「心因性疾患」といいますが、耳鼻咽喉科で
は、心因性の難聴、失声症、咳嗽(せき)、めまいや疼痛(痛み)などがあります。
耳鼻咽喉科学校医の約40%が、このような心因性疾患を診療した経験があるといい
ます。
Q2)心因性難聴とはどんな病気なのですか。どうしたらみつけられるのですか。
A) 学校で行われる定期健康診断での聴力検査は、子どもの難聴の発見に役立って
います。その中で、ストレスを受けた子どもの心の状態を映し出している心因性難聴
が見つかることがあります。心因性難聴は実際には聞こえているにもかかわらず、心
の問題が原因でおこる、みせかけの難聴です。
心因性難聴には、聞こえの自覚症状がなく日常生活でも気付かずに聴力検査で初
めて疑われるものと、「耳の中で音がする」とか「耳が聞こえない」などの訴えで耳鼻
咽喉科を受診して診断されるものとがあります。この両方で、小中学生で1万人に5
〜8人位見られます。男子より女子に多く、年齢的には6〜12歳に多く見られます。
Q3)健康診断で見つかる心因性難聴の特徴は、またその原因は何が考えられるので
しょうか。
A) 心因性難聴の子どもの多くは日常生活に何の症状もなく、親や周囲の人も聞こえ
が悪いことには気付かず、ほとんどが健診の聴力検査で初めてわかるという特徴が
みられます。そのうち7割近くは、背景に子どもを取り巻く環境からくるストレス(外因
子)と子ども自身の性格(内因子)の関係で難聴がおこると考えられます。大半の子ど
もが環境に適応できても、一部の子どもはそれに適応するのに時間がかかったり、適
応できないためこのような症状がでるのではと考えられます。
Q4)心因性難聴をおこすきっかけにはどのようなものがありますか。
A) 学校生活と家庭での問題に関することが大部分です。学校生活に関することで
は、学習、友人関係、転校やいじめなどさまざまです。具体的には「担任がかわった」
「クラスがえがあった」「クラスの雰囲気になじめない」など比較的に単純な原因から
「いじめ」など深刻な原因までさまざまです。
家庭での問題では、両親の離婚、親子関係、兄弟関係などさまざまです。単身赴任
で父が不在がち、進学問題で親と意見があわない、手のかかる兄弟がいてかまって
もらえない、親のかまいすぎなどがしばしば誘因になっています。ほかには自身の病
気のこと、塾・けいこ事などが負担になっているということもあります。問題が複雑に
からみあっている場合もおおく、どうしても原因を把握できないものも約3割あります。
Q5)心因性難聴の診断はどうしてするのですか。
A) 通常の聴力検査の結果だけでは判断がむずかしいのですが、他覚的聴力検査
という方法で検査すれば、本当の聴力がわかり、心因性難聴の診断が容易にできま
す。脳波をもちいた聴力検査(聴性脳幹反応)が一般的です。
Q6)心因性難聴の治療はどうするのですか。
A) 診断がついたら、本人や家族に「難聴をきたす耳の病気がないこと」「普通の人と
同じに聞こえていること」を話し、本人とのコミュニケーションが開かれ、心の背景がわ
かってくると、比較的早く正常になる場合が多いようです。改善がみられない場合は、
カウンセリングなどの心理療法や精神療法を行うこともあります。聴力が改善してもな
お、誘因と思われる環境への配慮は必要です。この場合学校関係者、保護者の協力
も必要でしょう。
心因性難聴は心の葛藤(かっとう)や悩みをもった子どもたちの‘SOS’ととらえ、治
療を円滑に進めるためにも教職員にも関心をもっていただき耳鼻咽喉科医と相談し、
養護教諭、保健主事、学級担任さらにスクールカウンセラーなどとの連携を図りなが
ら問題解決に努めることです。本人への心理的なプレッシャーがかからないように、プ
ライバシーの保護には細心の注意が必要です。なお、過度の原因の追及はかえって
マイナスに作用することがあるので注意してください。
長い目で見て大体はよくなります。一旦なおったと思っても再発する子どももいます。
なおる子どもたちの約半数は6ヶ月以内でなおりますが、あとはだいたい3年以内に
はなおるようです。
<アレルギー性鼻炎>
はるお君はむかしは喘息の発作になやまされていましたが、小学校高学年のいま
は喘息がでなくなったかわりに、くしゃみ・鼻水・鼻づまりが年中気になるようになりま
した。特に春先には症状がひどく、目のかゆみもでるようになりました。耳鼻科で検査
したところ、ダニやほこりによる通年性のアレルギーに、スギの花粉症もあるとのこと
でした。先生の指示に従ってカーペットをどかして床をフローリングにしたら症状がか
なり楽になりました、またスギの花粉の飛び始める前に耳鼻科にきて薬をもらうように
指示されました。
Q1)アレルギー性鼻炎とはどんな病気でしょうか。
A) ひとの鼻では、侵入してきた特定の物質(抗原)を自分以外の物質(異物)と判断
し、それを無害化して排除しようとする防御反応(抗原抗体反応)がおこります。その
際の鼻の中での反応が過剰に生じたものがアレルギー性鼻炎で、発作性におこるく
しゃみ、鼻みず、鼻づまりなどの症状がおこります。
Q2)アレルギー性鼻炎と花粉症は違うのですか。
A) 花粉が原因のアレルギー性反応が花粉症です。アレルギー性鼻炎はきまった季
節だけに生じる季節性アレルギー性鼻炎と、一年を通じて起こる通年性アレルギー性
鼻炎に分けられます。花粉症はこのうちの季節性アレルギー性鼻炎の代表です。通
年性アレルギー性鼻炎は家のなかのほこり(ハウスダスト)やダニに対する反応が主
で、ほかにカビや動物の毛や皮膚のかすも原因となります。学校健診の調査では、
20年前からの10年間にハウスダストやダニによるアレルギー性鼻炎が急激に増え、
その後の10年間にスギを中心とした花粉症が同じように増加しました。しかも通年性
アレルギー性鼻炎と季節性アレルギー性鼻炎の両方を持つ人が多いようです。
Q3)花粉症にはどんなものがありますか。
A) 関東地方では2月から5月にかけてのスギ・ヒノキの花粉症が特に多くみられま
す。その他に初夏にはカモガヤなどのイネ科の植物、秋にはブタクサ・ヨモギなどの
キク科の草花による花粉症もおこります。
Q4)アレルギー性鼻炎は遺伝するのでしょうか。
A) 親のアレルギー体質は子どもにも受け継がれることが多いようです。ただし症状
がいつからどのように出るかは個人差があります。全部が遺伝的な要因で決まるわ
けではないようです。
Q5)アレルギー性鼻炎には何歳位からかかりやすくなるのでしょうか。
A) 統計では6歳前後を境に受診者が急増するようです。平成6年度の学校保健会
の調査では、過去に医師から何らかのアレルギー疾患と診断された児童・生徒のうち、
アレルギー性鼻炎と診断されたものは男子で62.6%、女子で52.8%と高率を示して
います。しかし最近は症状がはじめて現れる年齢は低くなる傾向があります。またほ
こり(ハウスダスト)・ダニに対するアレルギー性鼻炎だけではなく、以前には子どもに
は少ないとされた花粉症も次第に低年齢化してきています。
Q6)季節との関係はあるのでしょうか。
A) 花粉症では原因となる花粉が飛ぶ時期に症状が出ます。またほこり(ハウスダスト)
ダニのアレルギーでも気温変化が激しい時期(季節の変わり目)に症状がつよく
でる傾向はあります。
Q7)住んでいる場所は影響するのでしょうか。
A) 花粉症の場合、原因となる植物の分布や花粉の飛ぶ方向などがこの病気の発
症(症状が出ること)に関わっています。また統計的には、工場地帯や交通量の多い
街道沿いなど大気汚染のひどい地域は住宅地や田園地帯よりもアレルギー性鼻炎
になりやすいといわれています。
Q8)日常生活ではどのような影響があるのでしょうか。
A) Q1で述べたように、3つの主な症状であるくしゃみ、鼻みず、鼻づまりが続くため、
日常生活に様々な問題が生じます。Q11 でくわしく説明しますが、鼻血を繰り返すこ
とがあります。また鼻づまりによる口呼吸のため、咽頭乾燥感(のどの乾き)、のどの
痛み・かゆみ、頭痛を訴えることもあります。さらに不眠、授業中の居眠り、イライラ感、
全身倦怠感や集中力の減退など、学業への支障が生じることもあります。
Q9)アレルギー性鼻炎の診断と検査はどのようにして行うのでしょうか。
A) 診断はまず耳鼻咽喉科の専門医が鼻の状態を観察することから始まります。そ
してアレルギー性鼻炎の疑いがある場合には、鼻みずの中の細胞(好酸球)を調べ
たり、血液中のIgE抗体(免疫反応に深く係わる物質)の値を測ります。アレルギー
の原因の検査(抗原検査)としては、@皮膚反応検査A鼻粘膜誘発検査B血液検査
(特異的IgE抗体検査)などがあります。くわしくは耳鼻科の専門医と相談してください。
Q10)アレルギー性鼻炎はなおらないのでしょうか。
A) 治療や日常生活での注意によって、症状を軽くしたり、でにくくすることはできます。
根本的な治療では、ごく少量の抗原(アレルギーの原因の物質)を定期的に注射して
からだをならしてしまう減感作療法があります。ハウスダストで70〜80%、花粉症で
30〜60%の有効率がありますが、数年間の治療が必要になります。
また加齢(歳をとること)も症状の程度に変化をあたえます。しかし根本的にはそれ
ぞれの人の体質にかかわる病気ですので、短期的には「なおる」という言い方は適当
ではないかもしれません。
Q11)鼻血との関係はありますか。
A) 頻回のくしゃみや鼻かみで、鼻の入り口付近の粘膜があれやすくなります。また
鼻のかゆみから鼻をこすって粘膜が傷つく場合もあります。このような時に鼻血がで
ることがありますが、「こばな」を押さえれば、数分で止まります。
Q12)他の病気との関連はありますか。
A) アレルギー性疾患である喘息やアトピー性皮膚炎との関係は深いことがわかっ
ています。年齢とともにアトピー性皮膚炎から喘息、さらにアレルギー性鼻炎へと移
行する例が多いようです。
鼻づまりが続くと、口呼吸のため、ほこりが直接気管に入り、気管支炎などの呼吸
器疾患をおこしやすくなります。鼻づまりや鼻みずのため、小学校低学年生では急性
中耳炎や滲出性中耳炎をおこしやすくなることもあります。最近では従来の蓄膿症
(慢性副鼻腔炎)とは異なるアレルギー性副鼻腔炎との関連も注目されています。
Q13)まちがえやすい他の病気はありますか。
A) 「かぜ」のひきはじめの症状と似ている場合があります。またアレルギー性鼻炎に
近い病気で、原因となる物質(抗原)がなかったりあるいは見つからない、血管運動
性鼻炎や好酸球性鼻炎は症状がとても似ていますが、治療方法はほとんどアレルギ
ー性鼻炎と同じです。
Q14)予防法はありますか。
A) 原因物質(抗原)との接触を断つことが一番の予防法になります。
ハウスダストやダニが原因であれば、寝具を日光に干したあと、掃除機でほこりや
ダニを吸い取ります。また掃除を頻回に行い、換気に注意し、ダニが発生しやすいカ
ーペットや敷物の使用をさけるようにします。
花粉症の場合は、晴れた日や風の強い日の外出を控え、外出からの帰宅時には外
で花粉を払い落とすようにし、うがい・洗顔・洗眼などを行います。窓も閉めておきまし
ょう。また花粉が飛び始める前から予防的に花粉症用の薬を使い始める方法もあり
ます。最近ではいろいろな手段でスギ花粉の飛散情報を得ることができるので、予防
や薬ののみ方に役立てるとよいでしょう。
また日ごろから体調を整え、過労、ストレスを避け、規則正しい生活をこころがける
ことも重要です。
Q15)治療方法にはどんなものがありますか。
A) Q10で説明した減感作療法のほかにも、薬をのんだり、スプレー薬を使って症状
を予防したり、抑える方法があります。最近はいろいろな薬が開発されていますので、
医師と相談して、自分にあった治療法をみつけられればよいと思います。
手術による治療法は別の項目で説明します。
乾布摩擦や水泳などで皮膚を繰り返し刺激することにより鼻の過敏性を低下させる
鍛錬療法も家庭でできる改善方法です。
Q16)薬で治らない場合、手術は。
A) 薬などで鼻づまりが治らないときには、鼻のしきり(鼻中隔)をまっすぐにしたり、
鼻の中の粘膜を切り取る手術方法があります。さらに最近ではレーザーを使った手
術が開発され、鼻づまりだけでなくアレルギー反応の起きる粘膜を減らすことにより、
他の症状も軽くなる例が多く見られます。レーザーと同様に薬剤で粘膜を焼灼する方
法もあります。いずれも入院せずに外来でできる利点があります。専門医に相談する
とよいでしょう。
Q17)スイミングはしてよいのでしょうか。
A) Q15の項目でも述べたように、スイミングは皮膚への刺激を加えることによって
鼻の過敏性を低下させ、体をきたえて体質改善もはかれますので結果としてアレルギ
ー性鼻炎をおこしにくくします。しかし高濃度の消毒用塩素は鼻の粘膜を刺激します。
またプールの水の中に抗原がみつかる場合もありますので、適正な水質のプールで、
適度な運動量にコントロールしながら泳ぐことが重要でしょう。また鼻炎の症状が強い
ときは、鼻症状をさらに悪化させ、耳の病気を引き起こすもとになることもありますの
で、プールは休んだほうがよいでしょう。いずれにせよかかりつけの耳鼻咽喉科の先
生と相談した上で決めましょう。
<学童嗄声>
よういち君は、運動会の赤組の応援団長にえらばれて一生懸命練習をしたのです
が、張り切りすぎたのか声がガラガラになって、もとにもどらなくなってしまいました。
耳鼻科でみてもらったところ声を作る声帯というところに結節というでっぱりができて
いるといわれました。のどの吸入に通って、声の無理な使い方をしないようにすれば
少しずつよくなるだろうとのことです。
Q1嗄声(させい)とはどういうことでしょうか。
A) 声の病気による変化には、声の「高さ」、「強さ」、「音質」の異常などがありますが、
このうちの「音質」の異常を嗄声といいます。嗄声は聞いた感じで、ガラガラした声(粗
?性)、かすれた声(気息性)、弱々しい声(無力性)、力んだ声(努力性)などに分類
され、これらの程度から原因となる病気や、その障害の程度が推測できます。
Q2)嗄声の原因となる病気にはなにがありますか。
A) だれでもカゼをひいたときに声が嗄れた経験があると思います。これはカゼの部
分的な症状として、声を作る声帯の粘膜が炎症をおこす(喉頭炎)ためです。
声の使いすぎや、無理な発声のために声帯のへりに小さな隆起ができるものが、声
帯ポリープや声帯結節といわれるものです。学校や幼稚園の先生、歌手、バスガイド
など声をよくつかう職業のひとに多くみられます。子どももスポーツで大声を出したり、
声の使い方が悪いために嗄声となることがよくあります。これが学童嗄声といわれる
もので、ほとんどが声帯結節などの声帯の腫れによるものです。
嗄声はこの他に、おとなでは声帯溝症や声帯麻痺、喉頭がんなど多くの病気の症
状として現れることがあります。
Q3)学童嗄声は自然になおりますか。
A) かるい嗄声であれば、声の安静をこころがければ自然によくなることもあります。
嗄声が1週間以上続いたり、次第に悪くなっていくような場合は、耳鼻咽喉科専門医
の診察をうけたほうがよいでしょう。原因がはっきりすれば、医師の指導のもとに治療
をうけてください。声帯結節による場合、声の安静が第一ですが、ネブライザー(薬液
の吸入)治療や、誘因として上気道炎や副鼻腔炎が考えられる場合はその治療もう
けます。また長く続いている嗄声でも、声変わりの時期に声帯が前後に急激に伸ばさ
れるときに結節も一緒に消えてしまうことも多いのでそのまま経過観察のみでよい場
合もあります。
重症の嗄声のために、音楽や教科書の音読での支障が大きかったり、友達とのコミ
ュニケーションがうまくいかず、心理的にも悪い影響がでてきた場合は手術も考えら
れますが、あまり一般的な治療法ではありません。
<吃音>
友だちのあきら君は、授業中に先生にさされたりすると緊張してどもってしまうことが
よくあります。あきら君もあまり気にしていないし、僕たちもなれているのでせかしたり
せずに見守っています。
Q1)どもり(吃音;きつおん)とはどんなものですか
A) 会話でのリズムの障害で、ことばがりゅうちょうにでない状態です。同じ言葉をくり
かえしたり、急に止まってしまうなどの症状です。興奮した時や、急いで話すときなど
にはっきりします。ふつうのひとでもこのような場合にはどもることがありますから、吃
が会話量の1〜2%以下のものや、1〜2音節の繰り返しや引き伸ばしは気にする必
要はありません。3歳から5歳位で症状が出てくることが多く、男子に多くみられます。
原因としては、遺伝的な要因や環境的な影響などがあげられていますがはっきりとは
していません。
Q2)どのようにしたらよいのですか。
A) 12歳ころまでに約60%は自然になおります。症状がかるくて、あまり気にしてい
なく、症状の変動が大きい場合はあまり心配はいりません。
6歳頃から吃(きつ、どもり)を意識し始め、年齢とともに舌打ちや瞬きなどの症状が
伴ったり力みなどが多くなることがあります。吃音を強く自覚している場合や慢性化・
固定化している場合は専門医(耳鼻咽喉科)を受診して言語訓練ができる施設を紹
介してもらいましょう。不安感が強い場合は心理的な働きかけも必要です。
Q3)親やまわりの人はどのようにしたらよいのですか。
A) @話し方にイライラした様子を見せない。A話すことにやや困難のある普通の子
としてあつかう。Bよい話し方をするような圧力をかけない。Cせっかちに話しかけな
い。D話すことが楽しいという表情を示す。E誰でもどもることがあることを知らせる。
などよく理解してあげて、環境を調整してあげることが大切です。
<構音障害>
しょう君は、話すときにときどき口をゆがめて変な発音をすることがありました。担任
の先生が気づいて、耳鼻科の校医さんに相談したところ、側音化構音という構音障害
のひとつとわかりました。このままにすると大人になって困るだろうと、ことばの教室に
行くよう指示され、何回か訓練をうけたらちゃんとした発音ができるようになりました。
Q1)発音がおかしいといわれますが。
A) 言葉となる音(音声)が正しく出せず発音がおかしくなる状態を「構音障害」といい
ます。構音障害には、のどや鼻また神経に異常があるための器質的構音障害と、そ
のような異常がとくにみられない機能性構音障害とがあります。器質的構音障害は口
蓋裂や脳性まひなどの場合なので学校に入る前に発見されて治療されています。し
たがって児童生徒にみられるのは機能性構音障害がほとんどです。
Q2)機能性構音障害ってどんな症状なのですか。
A) 「さかな」といったはずなのに「たかな」となってしまう。このようにサ行のことばが
タ行になってしまうようなものを置換といいます。「さかな」が「さあな」とおとがぬけてし
まうのは省略といいます。また日本語ではつかわないような発音のしかたをするもの
をゆがみといいます。これらは発音を学習していく途中でのあやまり、くせが固定化し
てしまうためにおこるといわれています。
Q3)構音障害はほおっておいてもなおりますか。
A) たいていは4〜6歳までに自然になおります。したがって小学校以後にもこのよう
な構音障害がある場合は、専門医(耳鼻咽喉科)の診察をうけることが必要です。耳
鼻咽喉科で声を発生する器官の検査や聴力検査(見過ごされている軽い難聴のため
に構音障害がおこることもあります。)などを受けた上で、話し方のトレーニングをする
機関へ紹介してもらいます。適切な訓練をうければ数ヶ月〜3年で治癒します。対策
を講じないと、発音をからかわれる「いじめ」にあったり、成人してからも発音に劣等感
を抱くことになってしまうことがあります。
<声変わり(変声期)、声変わり障害>
しょういち君は中学生になって、まわりの男の子たちがみな声変わりで声が低くなっ
ているのに、ひとり小学生のような高い声が続いています。耳鼻科でみてもらったとこ
ろもう大人ののどになっているのに発音のしかたがそれに追いついていない声変わり
障害(変声障害)と診断されました。何回か発声訓練をうけただけでみんなのような低
い声で話せるようになりました。
Q1)「声変わり」について教えてください。
A) こどもの声から大人の低い声に変化するのを声変わり(変声)といいます。小学
校高学年から中学にかけて、いわゆる思春期に急速な体の成長がみられます。この
時期に声帯をふくむのど全体の枠組みもおおきくなり声帯が前後に急激にのばされ
ます。また男性では男性ホルモンの増加によって声帯の厚みもますなどの変化によ
って、話し声の高さが低くなるとともに、声の質にも変化がおこります。これらの変化を
声変わりといっています。男子では話し声の高さが1オクターブ以上低くなることもあ
ります。女子にも声変わりがありますが、男子ほどはっきりとしません。
Q2)「声変わり」のときに気をつけることはなにですか。
A) 声変わりは通常は6ヶ月から10ヶ月で完了するといわれています。この期間中
は、会話中に急に声が裏声になったり(声がひっくりかえる)、声帯の充血のために声
がかすれたりするといった、声の不安定な状態が続くことがあります。声をだすのに
心理的に不安感をもつこともあるかもしれませんが、自然のことなので特にむずかし
く考えすぎないほうが良いでしょう。
ただこの時期に無理な発声をすると声帯の粘膜を傷つけて、声変わりがすぎても
嗄声(声がれ)が残ることがありますので注意を要します。声変わりの著明なときには、
歌唱の制限も必要なこともあります。あまりに声のかれがひどいときは、耳鼻科を受
診してネブライザー(薬液の吸入)などの治療をうけてください。
Q3)男子でも声変わりがないことはあるのでしょうか。
A) 男子では通常は12歳から14歳くらいまでのあいだに声変わりがあり、話し声が
1オクターブ以上も低くなることもあります。
からだのほかの部分の成長や二次性徴が正常なのに、高い声が続いている場合
は、声変わり障害(変声障害)の疑いがあります。これは声帯そのものは声変わりに
よる変化がおわっているのに、発声する際の筋肉の協同運動がうまくいかないため
に本来の地声ではない裏声での発声がつづくものです。ほかにも声変わり中のように、
会話中に地声が急に裏声になる(声のひっくりかえり)現象がいつまでも続く声変わり
障害があります。
いずれの場合も専門の耳鼻咽喉科医の診断をうけたうえで、発声訓練を行えば、本
来の安定した地声で発声できるようになります。
<心因性失声症>
中3のようこさんは、朝起きたらまったく声が出なくなってしまいました。のどの痛み
やかぜの症状もありません。ただ前夜、母と卒業後の進路に関して軽い口論があり、
母には私の言い分をうまく説明できませんでした。
Q1)急にまったく声がでなくなるような病気はありますか。
A) かぜなどで声がでなくなるような時は、だんだんと悪くなるといった症状の連続性
があります。ある時点を境にまったく声が出なくなる場合は、神経系の病気(声帯を動
かす神経のマヒなど)か、心因性失声症のふたつが考えられます。最近ではいじめや
ストレスからくる心因性失声症がときにみられます。
心因性失声症はその名が示すように、心理的な要因がもとで声がでなくなる病気、
いわばこころの叫びがからだに声を出させなくしている状態といえます。声をだそうと
しても息もれだけで声にならなかったり、ささやき声しかでないといった場合もあります。
Q2)心因性失声症の治療は耳鼻科でよいのでしょうか。
A) まずは耳鼻咽喉科を受診して、神経系の病気がないかをみてもらいます。心因
性失声症の診断が確定されたら、この病気を十分に理解した上で、発声練習をはじ
めることになるでしょう。必要であればその心理的な要因について、神経科やカウン
セラーへの受診をすすめられるかもしれません。
<ダイビングについて(楽しくダイビングをするために)>
最近は高校の修学旅行でダイビングをする機会が増えてきています。
また、海外旅行に行って、家族で体験ダイビングをする機会も増えているようです。
ダイビングをするためには、事前の健康チェックと正しい知識が必要です。
皆さんにダイビングを安全に楽しんでいただけるように今回「ダイビングについて」
のQ&Aを追加しました。
ひとし君は、高校の修学旅行で沖縄に行きました。ダイビング経験はないのですが、
沖縄のきれいな海の中を見たくて、体験ダイビングのプログラムに申し込んでいました。
旅行に行く数日前から風邪気味で、黄色い鼻水は出ていたのですが体は元気だったので、
ダイビングに参加しました。少し潜ったら耳が痛くなってしまったので、
途中で中止してしまいました。帰りの飛行機の中でも耳が痛くなり、
帰宅後耳鼻科にかかったところ、急性中耳炎と診断されました。
ひとし君の沖縄の思い出は散々なものになってしまいました。
Q1)ダイビングをする時の注意点はなんですか。
A) てんかんなどの神経系の病気、心臓病、喘息、頭部外傷、耳の手術などの
既往がある場合には、主治医の先生の診察を受けて、
ダイビングが可能かどうかチェックしてもらう必要があります。
いずれにせよ、ダイビングをする前には、きちっとダイビングインストラクターの
説明を聞いて、ダイビングが可能かどうかのメディカルチェックを受ける
必要があります。また、ダイビングをする当日の体調を整えておくことも大切です。
Q2)風邪をひいている時にダイビングをしても大丈夫ですか。
A) ひとし君のように黄色い鼻水が出ていたり鼻がつまっている時は、潜っていく時に耳抜きが
できなかったり、耳抜きが原因で鼻のバイ菌が耳に入ってしまって中耳炎を起こす可能性があります。
ひどい鼻カゼをひいている場合や、副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎などで症状がある場合は耳鼻科を
受診して先生の指示を受けましょう。
Q3)現在、耳鼻科に「ちくのう症」で通院していますが、ダイビングをしても大丈夫ですか。
A) 滲出性中耳炎、慢性副鼻腔炎(ちくのう症)、重症のアレルギー性鼻炎などで耳鼻科に
通院されている方は、主治医の先生に相談をしていただき指示を受けることが必要です。
病気の状態によってはダイビングができない場合もあります。
耳鼻科での治療をしっかりと続けていただくことも大切になります。
Q4)小さい頃、中耳炎を繰り返していました。今は、中耳炎にかかることもなく、
聞こえも問題ありませんが、ダイビングに支障はないですか。
A) 何回も中耳炎を繰り返していて、鼓膜が薄くなっているとダイビングができない場合も
ありますので、耳鼻科で診察を受けてください。同様に、中耳炎などで耳の手術を受けたことがある場合も
耳鼻科での診察が必要です。ダイビングをしないほうがよい場合もあります。
この場合でも、ダイビングではなくシュノーケリングを楽しむことはできるでしょう。
Q5)ダイビングをして重大な病気になることはありますか。
A) いわゆる潜水病といわれている減圧症などは直接命に関わることもあります。
耳鼻科に関係するところでは、内耳型減圧症や外リンパ瘻といっためまいや耳鳴り、
難聴などをきたすものがあり、適切な処置(手術になることもあります)がされないと、
一生、症状が治らないばかりか、ダイビングもできなくなってしまうことにもなります。
ダイビングを楽しむためには、ダイビングに対する正しい知識と、自分の健康状態の正しい把握が
必要です。無理のない楽しいダイビングを楽しみましょう。
発行人 日本耳鼻咽喉科学会神奈川県地方部会
会長 太田正治
編集・執筆 日本耳鼻咽喉科学会神奈川県地方部会学校保健委員会
担当副部会長 齊藤彰
委員長 玉虫昇
副委員長 猿田敏行、藤岡治、
委員 川上頴、木村元俊、新川敦、土田陽一、山口潤、
発行日 平成14年3月
日本耳鼻咽喉科学会神奈川県地方部会の |