第13回日耳鼻神奈川嚥下研究会報告
     
 平成 24年7月8日日曜午後、神奈川県総合医療会館7階講堂において、過去最高の250名の参加者を集めて開催された。参加者の内訳は、医師:55名(耳鼻咽喉科医師:38名)、看護師:63名、言語聴覚士(ST):48名、栄養士:23名、理学療法士:11名、歯科医師:9名、歯科衛生士:6名、ケアマネージャー:5名、介護士:3名、薬剤師:3名、その他未記入24名。
 アンケートの結果は、良かった:90%、内容が判り易い:81%、嚥下障害診療をしている:66%、耳鼻咽喉科医が嚥下障害診療をすることを知っている:87%、嚥下障害の手術療法を知っている:63%、口腔ケアだけでは嚥下性肺炎は防げない:84%。嚥下障害診療で医師が行うべきことは、全身管理、治療方針の決定、VF、VE、手術、肺炎管理、栄養管理、リハビリの順番であった。今後勉強したい分野は、嚥下訓練法、嚥下機能評価法、口腔ケア、栄養評価、食事介助、嚥下基礎的知識、スクリーニング、嚥下食、薬、などの順番であった。
 会の初めに廣瀬肇顧問の挨拶があり、今回の研究会を、嚥下という問題を通じて参加者各自が死生観について考えていく機会として欲しいと強調された。また、耳鼻咽喉科が中心となり嚥下についての正しい知識の普及を目指すべきであり、耳鼻咽喉科医は、嚥下と音声の専門家であるSTや嚥下認定看護師の意見に耳を傾けるべきであるとお話された。
 基調講演は、石飛幸三先生が『平穏死のすすめ』を講演された。その内容は、本来PEG(胃ロウ)は回復の可能性がある場合に使用されるピンチヒッターであったが、日本の高齢者の多くがPEGを望まないにもかかわらず、PEGを付けている。回復の見込みが無い終末期認知症高齢者の70%において、医療者の法律的な不安や、病院の都合で、PEGが造られている。多くのPEG症例はNST活動の影響で、体力や体調を無視して過多に栄養が投与されているために、嘔吐による窒息死、逆流による嚥下性肺炎、吸収不良による下痢などの問題を抱えている。老衰で口から食べられなくなった症例に、無理やりPEGから栄養を入れる延命処置は、自然な最後を乱すものである。自分にして欲しくないことは他人にすべきでない。何もしない自然な最後を「平穏死」と名づけ、「免責される概念」として普遍化するべきであると、芦花ホームでの現状を話された。
 「わかり易い嚥下のメカニズム」を西山耕一郎嚥下委員長が講演した。嚥下障害は咽頭期障害が最多数であり、喉頭挙上(喉頭閉鎖)と食道入口部開大の改善が重要である。口腔ケアは必須だが、口腔ケアだけでは治らない症例は多い。高齢者の嚥下機能は数日で廃用を生じ易いので、経口禁止期間はなるべく短くすべきである。誤嚥しても喀出できれば肺炎にはならないので、呼吸機能は重要である。嚥下機能は全身の体力に大きく左右されるので、普段から良く歩いて運動し、カラオケなどで発声することが嚥下機能や呼吸機能の低下を抑制できる。誤嚥しても喀出できれば肺炎にならないので、呼吸機能は重要である。嚥下障害の対応は、耳鼻咽喉科単独ではなく多職種連携が必要であり、そのためには十分な話し合いと、忌嘆の無い意見が言える関係が必要であり、自分の家族であったらと考えて対応すべきであると講演した。
 「ベットサイド評価を突き詰める」老健ST編を宮内辰也先生(グリーンヒル湘南)、急性期病院ST編を粉川将治先生(湘南病院)の講演があった。嚥下機能評価は、その症例の治療方針を決定するので、人生が変わってしまうこともあるほど重要である。VFやVEなどの画像検査が有用なのだが老健には設備が無く検査できない、他施設にて行うと入所施設の持ち出しになるため、容易にはできない医療制度に大きな問題点がある。そこで、ベットサイド評価や、SSPT、視診、触診、聴診、吸引などのテクニックをフル活用している現状を講演した。
 「嚥下食について―ワンスプーンからの挑戦―」を 石野智子先生、聖隷横浜病院栄養科科長が講演した。食事は、体を構成する栄養を得るために重要であり、同時に食べる楽しみもある。食物形態により誤嚥のリスクを減らすことができるので、個人の嚥下機能に適した食事を提供することが大切であると講演した。
 「ベットサイドでの対応法 」を 加賀田真弓先生、東海大学看護部が、口腔ケアは唾液誤嚥による肺炎を減少させ、口腔機能の廃用防止のために必須である。口腔ケアを行うことにより生活のリズムが作れる。不適切な口腔ケアは、肺炎を誘発することがある。嚥下リハビリテーションとしての間接訓練、直接訓練の実際。嚥下指導としての姿勢の調整、一口量の調整、嚥下法、誤嚥した時の対応法などの講演を行った。
 最後に齊藤彰部会長より、嚥下障害は全身疾患の現れであることが多く、医科が中心となり対応すべきで、多職種連携が重要である。各業種が十分にその役割をはたすべきであり、耳鼻咽喉科医は嚥下障害に対する対応をより向上させる必要があると閉会挨拶があった。
 
 平成24年7月吉日
嚥下委員会  
 委員長  西山 耕一郎
 
 
 
石飛幸三 先生
 
齊藤 彰 会長
 
会場の様子
 
     

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