嚥下機能改善手術と誤嚥防止手術について

関東労災病院 耳鼻咽喉科
門田哲弥


 嚥下障害に対する手術介入は主に嚥下機能改善手術と誤嚥防止手術があります。


@ 嚥下機能改善手術について
 反回(迷走)神経麻痺による声門閉鎖不全症例で気息性嗄声(声がかすれて出ない)場合は、声帯を内方に移動させる手術の良い適応となります。
 また咽頭期の嚥下障害で、適切な嚥下リハビリテーションを半年間行っても、改善がみられない症例が適応になります。多くの手術は全身麻酔でおこなうので、それに耐えられる方が対象となります。手術後は気管切開が必要になり、長期間の嚥下リハビリテーションと、それを遂行する本人の意思と家族の長期間のサポートが必要となります。
 代表的な手術法には,食道入口部を弛緩させる輪状咽頭筋切断術,喉頭挙上を強化する喉頭挙上術,声門閉鎖不全を改善する声帯内方移動術などがあり、適応や術式は病態に応じて決定されます。実際には輪状咽頭筋切断術と喉頭拳上術を一緒に行う場合が多いです(図1)。
 注意していただきたいのは、誤嚥は完全に防止することはできず、術後にも嚥下障害は残存しており、誤嚥の可能性を常に考慮する必要があります。ゼリーでも誤嚥していた方が、ミキサー食や全粥が食べられるようになるのを目指しますが、必ずしも期待どおりの効果が得られない場合もあります。


図1:嚥下機能改善術

喉頭拳上術
図
甲状軟骨と下顎骨に穴を開けて、糸やテープを通し喉頭を前上方に拳上します。それにより喉頭蓋による喉頭前庭の閉鎖を容易し,また喉頭閉鎖の強化や食道入口部の開大を得ます。



輪状咽頭筋切断術

輪状咽頭筋を切断し、食道入口部を弛緩させ食道へ流入抵抗を減少させます。

ファルマ(株)、兵頭政光監修 <嚥下のしくみとその障害への対応>より引用



A 嚥防止手術について
 気道と食道を分離すことで誤嚥を完全に防止する手術です。喉頭を摘出する術式(喉頭全摘出術)のほかに,喉頭を温存し気管レベル(喉頭気管分離術)(図2),声門レベル(声門閉鎖術)で分離する方法も考案されています。いずれの術式でも発声機能は失われ,気管孔が造設され、また誤嚥防止が目的であり必ずしも術後の経口摂取を保証するものではありません。
 手術の適応ですが、唾液誤嚥性肺炎や胃食道逆流誤嚥性肺炎を繰り返し肺炎死の危険が高い症例や、気管切開後に肺炎を繰り返している症例は、良い適応です。ALSなど在宅で介護を受ける症例などは、術後は痰の吸引回数が激減します。また脳血管障害例で、声を犠牲にしてでも安心して経口摂取したい場合も良い適応です。声を失うので、本人の意思確認と、介護力が十分あるかどうかも重要です。

図2:嚥防止手術

喉頭気管分離術
図
完全に気管と食道を分離することにより、 誤嚥を防止します。
気管を切断したあと喉頭側気管は吻合します。
肺側気管断端は前頸部皮膚に縫合し、 永久気管孔を造設します。
ファルマ(株)、兵頭政光監修 <嚥下のしくみとその障害への対応>より引用



 
 
目次に戻る
 
 


 
(C) 2008 日本耳鼻咽喉科学会神奈川県地方部会 All rights reserved